接待費不正請求 2

不正監査事例

年間300万円超の接待費

会社では、社員同士の飲食費を、親睦とか打合せとかいう名目で会社に請求することがあります。

しかし、回数が多すぎたり、単価が大きかったりすると、社員同士として精算するのが気が引ける為、得意先を接待したことにして精算する社員がたまにいます。

勿論、れっきとした不正です。

今回は、ある事業部門の幹部社員の事例です。

Bさんとします。

彼のことを調べようと思ったのは、単純な理由ではありますが、彼の接待精算の回数と費用の額が会社の中で特別に大きかったためです。

このときは、過去3年間の全社の接待費を、精算者別に集計してみたのですが、全ての年度でトップ3に入っていたのはBさんだけでした。

金額は、毎年、年間300万円を超えていたと思います。

自宅最寄りの店での接待?

そこで何百件とある精算データを一件ずつ見ていったのですが、見始めてすぐ2つの点に気づきました。

ひとつは、ある和食店の利用回数が毎年20-30回ととても多く、更に、その店がBさんが通勤で利用している自宅最寄り駅の近くにあることでした。

こうした調査では、対象者の人事情報も入手し、職務経歴や住所・家族状況といった個人情報なども一応目を通します。

領収書に記載されている店の住所を見たとき、彼の自宅と近いことに気づいたという訳です。

彼の自宅最寄り駅は、東京23区内ではあるものの、どちらかというと西郊よりで、複数の接待先に共通して便利な場所とはあまり思えません。

接待なのに、自分の帰宅しやすさを優先して店選びをするというのも変な話です。

勿論、自宅そばに人知れぬ名店があり、得意先に喜んでいただくために使うこともなくはないでしょうが。

更に不審だったのは、Bさんが休暇を取得した日にも何回か接待を行っていたことになっていた点です。

因みに、私の会社では、社員はマイクロソフトのアウトルックを使用しており、アウトルックのスケジュールは異なる部門含めて共有されている為、誰がいつ休暇を取得したといった情報も、本人が入力していれば、誰でも見ることが出来ます。

このスケジュールの共有化は、本来は、会議の招集等を効率的に行う目的なのですが、監査部では不正調査に使っていたわけです。

そして、領収書は手書きのタイプで、日付の筆跡が何となく不自然にも見えたのです。

筆跡から、恐らく2名の人が記入を行っていると思われ、内1名の筆跡が出てくるのは全体の2割以下(領収書が100枚あるとするとその内の20枚以下)に過ぎないのに、Bさんが休暇取得した日の筆跡は全てこの少数の筆跡なのです。

なお、「日付だけで筆跡の違いなんてわかるの?」と思われる人もおられると思いますが、数字って、意外と個人の癖がはっきり出るんですよね。

客単価の低い高級フレンチ

二点目は、六本木の、とあるフレンチ料理での接待データで、利用回数は多くないんですが、そのお店のホームページのメニューから推測される客単価と、精算データの客単価に大きな乖離があったことです。

メニューから推測される単価は少なく見積もっても2万円はするだろうと思われたのに対し、精算額では平均1万円程なのです。

この手の調査で、全ての店のホームページを必ずチェックするという訳ではないものの、「六本木のフレンチ」という情報だけで、単価1万円というのは十分不自然に思われた為、一応ひと手間かけたといったところです。

この2点について、Bさんと同じ事業部の自分の知り合いの社員に内々に情報をもらったり、そこで教えてもらったBさんに近い数名の社員に対して内密にヒアリングを行う等、更に調査を進めることとしました。

日付を抜いた領収書

結果です。

和食料理店については、接待で使ったこともなくはなかったものの、実際はほとんどが部下(主に同じ路線で通勤している)との社員同士の飲食で、更には、Bさんが家族と行った飲食まで含まれていました。

実際に店に行ってみてわかったのですが、領収書をもらうときにお願いをすると、日付欄を空欄にしてくれるのです。

そして、家族とは主に週末に飲食していたのですが、平日の日付をBさんが書き入れていたそうです。

それを、他の領収書と一緒に月に一度まとめて秘書に渡し、会計データに入力をさせていたのです。

自分が休暇をとっていた日については、本来、別の日付で申請すべきだったのを、平日だった為、うっかりそのまま本当の日付にしてしまったとのこと。

家族との私的飲食を会社に請求したのは勿論100%アウトですし、社員同士の飲食費を得意先接待費として精算するのは予算の不正流用にあたります。

因みに、店には、最初、昼営業が終わる1時過ぎに客を装って訪問し、会計が終わった後、身分を明かした上で、率直にいくつか質問をさせて頂きました。

ご店主は、常連客であるBさんの名前を憶えており、よく部下らしい人達や、家族でも利用していることを、特に隠し立てする感じでもなく話してくれました。

高級フレンチで女性部下と2人で食事

フレンチについては、合計3回の利用があったのですが、いずれも部下の女性社員と2人で行っていたことがわかりました。

相手はその都度違っていて、3名ともBさんと同じ事業部の若い社員でした。

このことは最終的にはBさんおよび当該の女性社員たちへのヒアリングで事実確定しましたが、あたりをつけられたのは、3名中2名が、アウトルックの当日のスケジュールにそれとわかる”跡”を残していたためです。(「19時、六本木」「18時半、〇〇(店名)」等。)

男女関係にあったという訳ではなく仕事を頑張っていることのご褒美に高級店に連れて行ってあげたとのことでした。

この点は、女性側にヒアリングした際の反応や、何よりアウトルックの割と正直な記載からも、間違いないと思われました。

しかし、単価が3-4万円もした為、そのまま精算するのは気が引けて、相手を得意先と偽り、しかも人数を水増しして単価を下げる、つまり2重に虚偽の申請をしていたのです。

罪の認識

Bさんはいさぎよく辞表を提出しようとしましたが、認められず、懲戒解雇という結果になりました。

この人はまだ40代半ばで、営業成績が抜群、同期の中ではトップランナーだったので、惜しい限りです。

監査部は、不正調査はしますが、処分を決めるのは人事部です。

ですので、聞き取り調査時点では解雇になるかどうかはわかっていなかったのですが、虚偽申請した精算金額は、部下との飲食も含めて全て返金してもらうことになるだろうとは伝えました。

その際のBさんの反応は、「これだけ会社の業績に貢献してきたにもかかわらず、そこまでしないといけないんですか?」という、私にとってはかなり意外なものでした。

家族との食事代は仕方ないにしても、部下との飲食は全て仕事だという認識だったようですが、つまりは自分のやったことの罪をその程度にしか認識していなかったようです。

一般的に、社内処分を受ける人は、やったことに対して処分内容が重いと感じる場合が多いようなのですが、後日解雇の通知を受けたときは一層大きなショックだったのではないでしょうか。

Bさんの認識、皆さんはどのように思いますか?

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