期末押し込み販売 1

不正監査事例

始まりは内部告発

売上目標を達成する為に、期末に近づくと、得意先に対して必要以上の額の仕入れをお願いすることがあります。

これは、“押し込み販売”と言って、色々な業種に見られる問題です。

その期に必要以上の商品を仕入れてもらえば、次の期にマイナス影響があるのは明らかです。

また実需を伴わない出荷であることが明確ならば、「架空売上計上」という会計不正でもあります。

しかし、なかなかなくなりません。

今回は国内のある子会社で起きた押し込み販売に関する事例を紹介したいと思います。

ことの発端はいわゆる内部告発です。

その子会社で働く営業マンだという匿名の人物からで、

前期末に会社の上層部から非常に強いプレッシャーがあり、期末の数字づくりに追われた。こういう意味のない仕事を何年も続けさせられており、社員は疲弊している。本社から経営陣を適切に指導してほしい

という主旨のものです。

匿名の告発は、嫌いな同僚や上司を貶める等を目的とした、虚偽の情報であることも少なくなく、実名告発に比較して、一般的に信頼性に欠けます。

その為、状況によっては対応しないこともあります。

ですが、売上データを確認したところ、前期の最終月の売上が例月に比較しそれなりに大きくなっていたことに加え、最終月の売上が締め日とその前日・前々日の3日間に大きく集中していることがわかったことから、当該子会社の社員に対して広範な聞き取り調査を行うこととしました。

若手社員による評価はアウト、管理職層は?

聞き取り調査を行ったのは営業部門の若手から幹部社員までの30名程の社員でした。

若手には会社に対する不満が相当に蓄積されていました。

複数の社員が、上司からかなり強い口調で期末の売上達成を指示されていたとの証言をしました。

そのうちの何名かは指示を受けたメールのコピーも提出してくれました。

一方で、課長以上の幹部社員からの発言を要約すると、最終月の売上が大きくなったのも、締め切り前の数日に売上が集中したのも、得意先からの要望によるもので、しかもたまたま複数の得意先から同じような要請が重なった、というものでした。

判で押したような回答を聞きながら、当初は、口裏を合わせているのではないかと疑いました。

しかし、それを裏付ける得意先とのメールのやり取りのコピーが提出されたこと、再度ヒアリングを行った数名の若手社員からも同様の発言があったこと、から、どうやら事実に間違いのないことが判明しました。

中途半端な結論

結論としては、“架空売上計上とまでは言い切れないものの、期末の販売行為は適正な程度をやや超えていた”、という、どうにもこうにも中途半端なものになりました。

つまり、期末の売上が大きくなったのは、会社が部下に強いプレッシャーをかけた結果であるとともに、得意先の自発的な発注という、会社の予期せぬ偶然が重なった結果でもあったようなのです。

なので、このときの売上の結果をもって直ちに押し込みとは言い切れない。

しかし、営業部門の複数の若手社員が期末の販売活動について強い不満を抱いている事実と、それが恐らく内部告発という追い詰められた行動につながったと考えられる。

したがって、会社や上司の指示・命令は行き過ぎていたと認められる、という判断をしたということです。

監査部はグループ全体のCEOの直下の組織であり、この結果を報告した時、CEOは何やら消化不良のような様子ではありました。

この子会社への処分は、以下のような厳重注意のみでした。

「以後の販売活動では、社員のモチベーションにも十分に留意し、適正な範囲を超えることのないように」

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