偏った出張先
ある子会社で発生した事案です。
私の仕事には、社員の立替精算のデータを定期的にチェックするというのもありました。
会社では、出張した時の交通費や、お得意先と会食した時など、社員がとりあえず立て替えておいて、後日会社に請求して精算するということがあります。
これが不正の温床になりやすいんです。
その子会社の管理職、仮にAさんとします。
Aさんは管理職の中でも上位のポジションにいる人で、周りの社員は彼の行動をチェックしにくい状況でした。
この会社は全国に製品を販売しており、Aさんは頻繁に地方に出張して、お得意先を訪問し、ときには接待をしていました。
データ上で彼の行動が目立ったのは、まずは、接待の回数と金額が、全社の中でもトップ10に入るほど大きかったこと、もうひとつは出張先に偏りがあったことです。
具体的には九州のある都市へ行く頻度がとても高かったんです。
例えば、北海道に出張するのは年に1度だけなのに、九州には5回も6回も行っていて、その際、必ず該当の都市を訪れているんです。
そこでの会社の売上が特に大きいとか、重要な得意先があるという訳でもないのに、です。
退職した役員を接待?
で、立替費用の精算データを一件ずつ細かく見ていきました。
精算する際は、日付、支払先名称、等に加え、接待ならば接待相手の会社名や参加者名も入力するルールになっています。
そして接待相手として何度か登場するある得意先の役員について、ふと気になってネットで調べてみました。
すると、何と半年ほど前に退任していたことがわかったんです。
勿論、世の中には引退後にも会社に影響力を持っている人というのもいて、引き続き接待の対象とする可能性はなくはありません。
でもこの場合は違いました。
実は、Aさんは九州のその都市の出身で、出張のたび、得意先回りの後に、実家を訪ねるとともに、学生時代の友人達との飲み会を行い、その費用を接待と偽って会社に請求していたんです。
勘定を負担したのは、恐らく友達にいい恰好をしたかったんでしょう。
データを見せながらAさんから聞き取りを行い、最初のうちはなかなか正直に話してくれませんでしたが、その得意先の元役員の方に電話で確認しようとしたら、すべて話してくれました。
この元役員については、実際に接待をしたこともあったものの、数年前から名前だけ使っており、退任されたことに気づいていなかったとのことでした。
不正の代償
Aさんは懲戒解雇になりました。
実家のある都市に業務の必要性を超えて頻繁に出張していたことは問題視されました。
ですが、その都度、得意先訪問もしていたのは間違いなく、これだけだったら厳重注意くらいで済んだかもしれません。
ただ私的な飲食の費用を会社に請求したのは完全にアウトです。
データを過去5年遡り、会社に請求したもののうち、私的飲食だったと認めたものについては、全て返金もしてもらいました。
確か5年の合計でも50万円に満たない金額で、その程度で人生を棒に振ったのです。
当時50代前半、同期入社の中では出世していた方ですし、何もなければ更に上のポジションに行く可能性もあったかもしれないので、勿体ない限りです。
私と近い世代ということもあり、急な退職の理由をご家族にどのように説明したのか気になるところでした。