今回は監査界隈でよく使用する専門用語について書いてみます。
簡単なことを、わざといかめしい言葉に言い換えて、威圧的な雰囲気を醸し出しているような気がして、当初は違和感がありました。
ですが、何年も日常的に聞いているうちに、いつの間にか、自分も普通に使うようになっていました。
果たして、いいのか悪いのか。。。
3つ例を挙げます。
“統制”
「この組織はよく統制がとれている」なんていう言葉を耳にしたことは多くの方にあるんじゃないでしょうか。
ただ、監査における”統制”という言葉の意味は、これとは若干違います。
そもそも仕事をしていると、決められた業務手順を逸脱する(はずれる)ことはよく起こります。
例えば、どこの部にも契約書なんかに押す“部門印”というハンコがあります。
本来は部長に申請書を提出してから使うのがルールなのですが、部長が出張で不在の時などに無断で押してしまう。
ちょっとしたことのように思えますが、れっきとしたルール違反です。
監査では、“業務監査”といって、数名の部員がチームを組んで、社内の各部門を順番に回り、ルールが守られているかを確認します。
チームからこのルール違反の報告を受けた監査部長や課長がよく発するのが、「その部の統制はどうなっているんだ?」という質問です。
ありがちなのは、「部門印を保管している企画課の課長が、申請書の提出を確認するという統制になっているものの、この課長が部門印を自分のデスクの上に置きっぱなしにしており、誰でも無断で使える状態になっていました。」なんて答えです。
別の例としては、部で保管している郵便切手の数を数えてみたところ、帳簿上の残高より少なかったので、理由を確認したら、切手を管理している社員の上司が、本来行うべき部下のチェックを行っていなかった、なんていうのがあります。
こういうやり取りを何度も耳にする中、自然と、「ああ、“統制”というのは、いわゆるダブルチェックのことなんだな」という理解に至りました。
ひとりの社員に業務を任せておくと、ミスをしたり、場合によっては不正を始めたりする。
そこで、一人に任せず、別の社員がチェックするルールにすること、監査ではこれを統制と呼ぶということです。
最初の例で言えば、部門印を押すという行為がひとりで完結するのではなく、ハンコを管理する人が別にいてその人も確認を行うこと。
後の例で言えば、切手の管理を行う社員の上司がダブルチェックすること、ということでしょう。
だったら、ダブルチェックと素直に言えばわかりやすいのに、と思ったものでした。
ネットで“内部統制とは”と検索すると、なんだかいかめしい言葉が並んでいて(『内部統制とは、経営者が会社を効率的かつ健全に運営するための仕組みのこと』とか書いてあります)、私のこの単純な解釈が本当に的を射ているのかは定かではありません。
ですが、そういう認識でいて困ったことは10年弱の間に全くなかったのは間違いありません。
“心証”
この言葉は気に入ってよく使っていました。
こんな使い方をします。
「資料の精査とヒアリングの結果、△△部では情報漏洩のリスクに対し十分な対策を行っているとの心証を得ました。」
因みに、広辞苑には、『心証とは「①心に受ける印象、②裁判官が訴訟事件の審理において、その心中に得た事実認識ないし確信」である(広辞苑第6版)』とされているようです。
我々は裁判官ではないので、心に受ける印象ということになるんでしょうが、要は感想のことなのかなと思います。
ですが、監査以外の業務で「自分はこれこれの感想を持っています」なんて上司に報告することは、ほとんどないと思うんですよね。
「お前の感想なんて聞いていない!」って叱られるのが落ちなんじゃないかと。
ただ、監査ではこれが許されるんです。
CEOへの報告書に最初にこの言葉を書いたときは少し勇気がいりました。
結果は、全く問題なく、CEOは「なるほど、わかった」てな感じでしたので、ほっとしたのを覚えています。
それ以来、自分的には、乱用は控えようとは思ったものの、割と頻繁に使わせてもらったように思います。
便利だったんですよね。
何でもかんでも「私はこういう感想です」で済ませられるのって。
皆さんは如何思われますか?
“突合”
書類とかデータを付け合わせる、或いは照合するということです。
監査部に行くまで果たして聞いたことがあったかどうか。
ですが、仮に初お目見えだったとしても、文脈と字面ですぐにおよその意味合いは掴めたと思います。
“統制”や“心証”に比べると、とっつきやすかったかもしれません。
加えて、自分の業務を進めるときの作業として行うことが多く、それを単に“付け合わせを行いました”とか“照合しました”とか言うよりは、何か専門的な仕事をしている感が醸し出せる気がして、喜んで使っていた気がします。
如何でしたでしょうか。
今日は3つご紹介しました。
人気があるようでしたら、続きを書いてみたいと思います。