売上目標をぎりぎりで達成する子会社
私がいた会社は海外市場向けにも販売を行っています。
国によって、地場の代理店向けに商品を輸出することもあるし、子会社を開設して自力で当該市場を開拓することもあります。
それぞれの子会社や代理店は、原則として、その国の中だけを市場とし、他の国に輸出を行ってはいけないことになっています。
今回は東南アジア地区の、子会社を設置していたある国でおきた話です。
その子会社を仮にC社とします。
C社は何年も連続で売上目標を達成しており、会社上層部からは優良子会社と見られていました。
ただ、目標をぎりぎりで達成するケースがほとんどであることから(実績が、計画比101%以下で達成することが多い)、実務担当者の中には不自然に思う人もいました。
そのうちの一人が私の親しい後輩社員で、彼と世間話をしている時にこの話を耳にし、調べてみる気になりました。
特定の得意先を優遇?
C社の出荷データを分析したところ、わかったのは、
- ある特定の得意先への売上がかなり大きな比重を占める
- その得意先への出荷は年度末に偏りがちである
- 他の得意先と比較して、かなり低い単価で商品を販売している
ことでした。
特に気になったのは3番目の点で、大口取引先に値引きを行うことは珍しい話ではないものの、通常、値引き率は20%程度がマックスのところ、この取引先への出荷単価は、他の取引先の平均の約半額という破格の値引きだったのです。
次に、この得意先の情報をインターネットで調べました。
今はかなりの情報がネットで簡単に手に入るので、監査にとっては非常に便利な時代です。
そして、この会社は、HPで自社の事業の中心は輸出ビジネスであると説明していることがわかりました。
要は、この得意先は、C社から仕入れた商品を、原則に反して第三国に輸出していたようなのです。
C社から大幅に値引きされた価格で仕入れていた為、輸出する際も、通常より安い価格に設定することが可能です。
その為、輸出先はいくらでもある訳です。
C社は、年末に売上目標に届きそうもないと判断すると、恐らく、この得意先がルール違反の輸出をすることを承知の上で、目標に足りない分を買ってもらっていたのでしょう。
輸出先の国では価格の低い商品が市場に出回ることになり、現地の子会社や代理店にとっては大迷惑です。
電話会議の結論
ここまでの情報収集と分析をした上で、C社の社長である日本人駐在員と電話会議を行うことにしました。
この得意先が他国に輸出しているはっきりとした証拠はなかったものの、状況を総合的に考えると、その可能性はかなり高いというのが監査部の見解だと告げました。
あまり友好的とは言えない内容ではありましたが、私がこの駐在員とは個人的に割合親しかったこともあり、話を素直に聞いてくれたように思います。
たまに逆切れしてくるような人もいますので。
その上で、逆に、もし監査部の見立てが誤っており、国内で販売しているのなら、その証拠になるようなものや、具体的な販売状況を教えて欲しいとお願いをしました。
それが出来ないのであれば、この得意先との契約は打ち切るべきだと。
その場では確たる回答は得られなかったのですが、後日、契約を打ち切るとの返事をメールでもらいました。
そして、翌期に売上データを取得し、該当の得意先への出荷はなくなっているのを確認しました。
C社のその後(それまでのように売上目標を達成し続けたのか?)はチェックしませんでした。