交通費不正請求

不正監査事例

これ、公表する必要あると思いますか?

先般、ニュースである地方自治体職員の不正が報道されていました。

”60代の課長職”と報道されていたと思います。

内容は、業務で外出の際に、本当は歩いて目的地に行ったにもかかわらず、バスを使ったことにして、その費用を請求していたというものです。

訓告処分とのことでしたが、実名で報道されており、果たしてそのまま勤務を続けることが可能だったのか。

会社に実害を与えた訳ではありません。(バスを使うことは許されていたようなので)

不正調査を担当していた私が言うのも何ですが、この処分も、それをメディアに公表したことも、果たしてそこまでやる必要があるのだろうかと感じました。

別な場所では、もっと悪質な行為が、注意で済まされているケースもあったのに、です。

2日連続した東京への日帰り出張

調査対象は、Aさんという50代の女性社員で、関東の北部で営業をしていました。

県内の得意先を訪問して営業活動を行うのが基本的な仕事ですが、本社での月次会議への参加、また得意先の東京支店への訪問の為、月に数回は東京に日帰り出張をしていました。

この県から東京に来るときは、社則で新幹線使用が認められており、交通費は片道で5,000円程かかります。

毎月その日帰り往復を何度か行うため、1カ月の交通費の精算額は数万円になります。

このときは、高額の交通費精算を行っている社員を抽出して不正がないかを調べていました。

Aさんのデータに注目したのは、金額の大きさもさながら、東京日帰り出張を2日連続で行っているケースが少なくなかったことによります。

当初疑ったのは、架空出張です。

新幹線ならば比較的楽とはいえ、それでも2日連続での出張は身体的に負担の筈です。

それを毎月のように行っているのは、果たして本当なのか。

新幹線チケットは、購入後、仮に払い戻しを受けたとしても、領収書が手元に残っていれば精算が可能で、払い戻された料金を着服することが可能です。

なので、精算したチケットが確かに使用されたかどうかは、精算時に上司がきちんとチェックしないといけません。

更に確認したところ、Aさんの所属している事業部は関東全域を担当しており、直属上司は東京在勤、即ち上司と部下の日常の仕事場所が別々であることがわかり、疑念は強まりました。

平素、上司の目の届かない場所で仕事をしている為、不正を許してしまっているのではないか、ということです。

新幹線の終電に間に合わない飲み会への参加と、東京で1人暮らしの娘

しかし、調査を続ける内、見方が変わってきました。

ひとつは、Aさんの人事情報を見たところ、大学生の娘さんが東京で一人暮らしをしていることがわかったことです。

また、飲食データと照合したところ、2日連続の東京日帰り出張の精算を行っている初日の晩に、別部門が開催した食事会の参加者にAさんの名前があったことです。

領収書に印刷された時間から、その食事会に最後まで参加していたとすると、地元行きの新幹線の終電には間に合わなかった公算が高いこともわかりました。

その後、この食事会の別の参加者に内密でヒアリングを行い、Aさんが確かに参加していたこと、食事会の最後までいたことが確認できました。

つまり、Aさんが2日連続で日帰り出張をしたことになっている初日の夜は、地元に戻っていないか、或いは仮に戻ったにせよ、少なくとも新幹線は使用していないことがわかったのです。

一旦は自白したものの。。。

Aさんのヒアリングを実施してこのことを指摘し、実際は娘さんの部屋に泊ったのではないかと尋ねました。

Aさんは、他部門主催の飲食への参加、別居家族情報、出張、という3つのデータが紐付けられて不正が露見するとは予想だにしていなかったようです。

「そこまで調べるんですか。」と、ある意味、監査部の調査力に脱帽し、反論することもなく不正を認めました。

架空出張を行ったことはなかったとのことです。

しかし、娘さんの大学入学後、2年間、毎月1回程度、往復約1万円の架空の新幹線料金を請求していたとのことです。

不正額は合計で20万円を超えていたと思われます。

しかし、その後の展開は残念なものでした。

上述のように監査部の調査では不正を認めたものの、処分を決める人事部の審問でAさんが証言を翻し、娘の部屋に泊ったのはその1回のみであり、それ以外は全て実際に地元に戻っていたと主張したのです。

人事部は、容疑は濃厚であるものの、証拠がなく本人が認めない以上、黒と決めつけることは出来ないと判断しました。

結果、不正金額はその1回のみの約1万円ということになり、処分は厳重注意のみになったのです。

監査部のヒアリングの際は、Aさんは完全に観念した様子だった為、後日この結果を人事部から聞いたときはとても驚きました。

そして心の内で一言つぶやきました。「しぶとい」と。

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