50代で中国語習得! やってみてわかった外国語の効率的学習法

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私は、英語、フランス語、中国語の3つの言語が話せます。

ただ、英語とフランス語については、学習を開始したのは頭の柔軟な若い頃(英語は中一、フランス語は28歳)だし、加えて、それぞれの国で暮らしたことがあるという環境面でのアドバンテージもありました。

アメリカでは5年間、毎日英語を使って仕事をしていましたし、フランスは、滞在期間は2年とアメリカよりは短いものの、当初の半年間、現地の家庭にホームステイしながら語学学校に通わせてもらうという恵まれた環境でした。

これに対し、中国語の勉強を始めたのは、新たな外国語の学習をスタートするにはちょっと遅すぎる52歳で、しかも、中国本土や中国語を話すその他の地域に暮らしたことも一切ありません。

ですが、現時点での中国語の能力は、英語・フランス語と同等以上と思っています。(因みに、英語はアメリカからの帰国時に受けたTOEICで975点、フランス語は駐在時代は簡単な通訳ができるレベルでした。)

中国語検定協会が”実務に即従事しうる能力の保証”と定義している中検準一級にも合格しています。

そして今になって改めて考えると、50代で学習を開始し、環境面でも格別なアドバンテージがない中にもかかわらず、一定の成功を納めることが出来たのは、何となく始めたある学習法によるところがとても大きかったと思うのです。

今回はそのことについて書きたいと思います。

一冊丸暗記

結論から言うと、私の中国語の基礎を作った学習法は、ある対訳本の丸暗記です。

(この時点で「一冊丸暗記なんて自分には絶対無理。関係ないな。」と思っても、騙されたと思って、どうか先に読み進めてください。)

本のタイトルは、「読んで覚える中国語単語」(白水社)といいます。

内容は、300-400文字程度の短めの文章30個とその日本語訳、更にそれぞれの文章のあとに新出単語の解説が加えられたもので、音声CDが添付されています。

レベル的には、中検2級までをカバーするように作られており、中検2級・3級で出題される頻出単語1200が使用されているそうです。

内容は、中国の若者向けの雑誌に掲載されたエッセー的なものから抜粋、書き直したもののようで、それぞれ、”ダイエットの方法”、”農村の子供の将来”、”パンダの伝説”、等といったテーマで書かれています。

購入したのは中国語の勉強を開始してから半年くらい経ったころだったと思います。

最初から丸暗記しようと思っていた訳ではなく、語彙力強化のために記載されている単語を使用例とともに覚える目的でした。

購入時の私の実力に対してはやや難しすぎるレベルだった為、まずは対訳と単語の解説を見ながら章ごとの大体の意味を把握し、その後にCDを聞いて、単語の発音を耳で確認しました。

当時は毎日2時間程度を中国語の勉強に充てていましたが、2時間集中して1章進むのがやっとという感じで、2章目以降は前の章の復習もしながら進めたので、全30章をひととおり読んで聞き終えるのに、ひと月半からふた月くらいかかったと思います。

その後、今度はCDを自家用車のオーディオにセットして、運転しながら聞くことを始めました。

当時、車の運転をするのは週末だけで、もっぱらゴルフ(練習場またはコース)のときです。

運転時間は、練習場の往復なら大体1時間、コースの場合は行先によって往復2-3時間というところです。

1章あたりの録音時間は2-3分程度で、1時間くらい同じ章を繰り返して聞きます。

例えば、練習場の往復で、一つの章を20回から25回くらい繰り返して聞いたことになります。

どの章も既にひととおり目を通し意味も音声も確認済みとはいえ、運転しながら聞いていると、聞き取れない部分や意味のあいまいな部分が結構出てきます。

わからなかったのが何章のどの部分かを覚えておき、帰宅してから本を見て、意味と発音を再確認します。

そのうち、家に帰るまで確認できないのがもどかしくなって、同じ本をもう一冊購入して車に置いておき、出先(ゴルフ場の駐車場等)でも確認ができるようにしました。

この当時は、自宅での勉強ではこれ以外にも色々な書籍を使っていましたが、車の運転のときの聞き取りと、その確認作業だけは、この本をずっと使い続けていました。

何度か繰り返すうちに、聞き取れない単語はほぼなくなってきたので、今度は聞きながら自分でも声に出していく練習を始めました。

”シャドーイング”といって、原語の音声を聞きつつ、一拍遅れくらいで、自分でも発声していく練習です。

外国語の習得には有効と言われる方法ですが、それまではその説をあまり信用もしていませんでしたし、面倒なので取り組んだことはありませんでした。

中国語は、”四声(しせい)”といってすべての漢字に4種類のイントネーションのいずれかが割り当てられていて、これが中国語の難しさの一つと言われています。

何度も聞いて四声についても十分わかっているつもりでいたのが、自分で発音し始めてみると、最初はなかなかうまくいきませんでした。

しかし、特に帰り道などには、大きな声でシャドーイングをするのはいい眠気覚ましにもなるので、何となく続いていました。

そのうち、このシャドーイング練習が非常に役立つことがわかってきました。

特に感じたのは、中国語の学習開始以来ずっと継続しているネイティブの家庭教師との会話練習のときです。

うまく言えませんが、何というか発音のコツが掴めてきた感じで、本に出ている単語だけでなく、その他の単語でも、以前より自信をもって自然に発音できる感じなんです。

更に同じことを繰り返しているうちに、それまでCDの音声に一拍遅れて発声していたのが、徐々にですが、CDより一拍早く発声できるようになりはじめました。

自然に内容を覚え始めていたんですね。

最終的には、本を最初に購入してから1年半くらいで、全30章を、本を見ずに全て空で言えるようになっていました。

たまたま良かったポイント

この学習法の中で、狙ってそのようにした訳ではないものの、結果として考えると、たまたま良かったと思えるポイントがいくつかありました。

以下の通りです。

  • 対象が短文であったこと(区切りがはっきりしているので、繰り返し練習がやりやすく、ひとつ覚えるごとに達成感もある)
  • 定期的な運転時間を勉強に活用したこと(運転中は他のことに気を取られない・他のことは出来ない、毎週末自動的にハンドルを握るので勉強を始めるのにやる気を奮い立たす必要がない)
  • ひとりでのドライブはシャドーイングに最適の環境(声を出すシャドーイングは、公共の場は勿論、家族のいる家でも難しい)
  • アウトプット(口に出す・文字を書く)は、インプット(聞く・読む)より、暗記に有効

定期的に運転することがない人でも、ジョギングや散歩の習慣がある方なら、その時間を活用できるでしょう。

通勤電車・バスの中では、大声でのシャドーイングは無理ですが、少々効果は落ちるかもしれないものの、口の中で呟く感じで出来るかもしれません。

一冊丸暗記してわかったこと

元々、一冊の本、30の文章を、丸暗記しようという気は毛頭ありませんでした。

そんな学習法は英語でもフランス語でもやったことがありませんし、そもそも本の丸暗記なんて不可能かつ非効率だと感じていたと思います。(”非効率”というのは、既に知っている単語も含めて暗記する為)

ですが、一冊暗記してみて初めてわかったことがいくつかあります。

ひとつめは、単語を個々に覚えるよりも、文章を丸ごと覚えてしまう方が、記憶の定着が深く、忘れにくくなるということです。

前に何かの本で読んだことがあるのですが、人間の記憶は、何か別のものに関連付けておく方が長持ちするそうです。

有名な記憶術のひとつに「場所法」というのがありますが、これは、何かを覚える際に、どこかの場所を想定し、その場所に覚える対象物が置かれているイメージを記憶するというもので、起源はギリシャ時代にあるそうです。

例えば、英単語を5個覚えようとしたとき、それぞれが自宅の居間、寝室、廊下、玄関、ガレージに置かれている光景を頭に思い浮かべつつ覚えると、忘れにくくなるそうです。

場所と一緒に覚えるということは覚える対象を増やすことになるので、脳への負荷を増やしてしまう気もしますが、人間の脳って不思議ですね。

しかし、論より証拠、文章を丸ごと覚えていると、個別に単語を覚えているより思い出しやすいのは確かで、文章を口の中で冒頭から復唱していくと単語が次から次に自然に思い浮かんでくる経験をすると、この記憶法が時代を超えて生き残り使われ続けているのも頷けます。

二つ目に感じたのは、文法面での効果です。

私は語学の習得にあたって、もともと、ブロークンでも通じればいいやというタイプで、文法をやや軽視する傾向があります。

文法の勉強は退屈に感じてあまり好きでないということもあいまって、中国語についても、文法は、初級者用の参考書に数回目を通しただけ。

ただ、文法がいい加減なままだと、会話で意味は何とか通じても、でたらめな言い回しを聞かされる会話相手には結構なストレスだと思いますし、何より自信を持って文章を”書く”ことが出来ません。

しかし、この一冊丸暗記のあと、むしろ試験の文法問題は得意になっているのに気づきました。

例えば、中国語の試験で頻繁に出される問題の一つに「語順問題」があります。

ランダムに並んでいる単語を正しい文章になるように並び替える問題です。

文法的なルールをきちんと理解して、そのとおりにするのが王道だと思いますが、本一冊分の文章を丸暗記していると、特にルールを考えなくとも、自然に正解が頭に浮かんできます。

その他にも、疑問文や命令文の作り方、数の表現(年齢、値段、時刻等)、代名詞の使い方、等の幅広い文法が、本を一冊覚えると自然に身につきます。

これは全く期待していなかった効果でした。

最後に一番強調したいのは、本の丸暗記は想像していたほどは大変とは感じなかったことです。

改めてこの本の学習にかけた時間をざっくり計算してみると、最初の意味を確認しながらの通し読みが2時間×45日=90時間、車の中でのリスニングとシャドーイングが1時間×130回(毎週土日、1年4カ月)=130時間で、合計約220時間です。

こうしてみると時間的には結構長いですね。

ただ、特にリスニングとシャドーイングに使った車の運転時間は、元々ぼんやり音楽やラジオを聴いたりしていたあまり生産性のない時間だったこともあり、何か特別に努力したというより、知らないうちに暗記できてたというのにやや近いんです。

これまで、英語にしてもフランス語にしても、長い文章の暗記に取り組んだことはなく、それは、これほどの効果があるのを知らなかったことに加え、その大変そうなイメージによるものだったので、とても意外でした。

まとめ

誤解のないように付け加えますが、上級レベルに到達する為、例えば、中検準一級に合格するためには、一冊の本を丸暗記しただけでは不十分だと思います。

私も、準一級合格までには、もっと広範な語彙力を身に着けるために他のジャンルの異なる本を何冊か読みましたし、中国語特有の”成語”(いわゆる四文字熟語)の学習にも相当時間をかけました。

ただ、上級の学習を進める為には中級レベルの基礎力が必要で、一冊丸暗記学習法はそのしっかりした基礎を構築するのに最適の学習法だと思います。

これを書きながら、しばらく遠ざかっていた運転中のシャドーイングに再び挑戦してみました。

何年も経っていた為、さすがに忘れている部分も少なくなく、CDに先行して発声するのはちょっと難しい状況です。

ですが、聞いていると、割とすぐに記憶が蘇ってくる感触はあるので、しばらく続けてみようかと思っています。

また、英語やフランス語でも改めて取り組んでみようかという気になっています。

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