英語・フランス語・中国語、一番難しいのは?(発音編)

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日本語の発音は簡単?

かなり以前のことですが、知人の中国人女性(日本在住・日本語ペラペラ)と、外国語の学習について意見交換をしたことがあります。

このとき、私は中国語の学習を始めてまだ半年程度で、その発音の難しさに本当に苦戦していた時期でした。

外国語なら何語であろうと発音に苦労するのは同じだろうと当然のように思っていたので、日本語の発音の難しい点について尋ねてみました。

ところが、「日本語は敬語や助詞が難しいけど、発音は簡単です」というお答えで、とても意外でした。

日本語はイントネーションの変化が少なく、音声も中国語に比べて単純なのだそうです。

あくまで彼女個人の所感であり、日本語を学ぶ中国人が全てこのように思っているわけではないでしょうが、言われてみると、確かにそうかもしれないという気がしました。

例えば音節の数については、日本語は濁音(だくおん、“゛”のつくもの)や拗音(ようおん、語尾に“ゃ”“ゅ”“ょ”等がつくもの)を加えても100種類程なのに対し、中国語は400種類以上もあるからです。

外国語を習得するのは何語であっても決して簡単なことではありませんが、よく言われることに、”とはいっても、言葉によって難易度には差がある”ということがあります。

例えば、多くの国の人にとって、日本語は非常に難しい言語のひとつだそうですし、ラテン系言語の話者にとっては日本人と比べて英語の難易度はとても低いそうです。

今回は、日本人にとって、英語・フランス語・中国語の難易度を、特に“発音”という観点で、私の実体験に基づいて考えてみたいと思います。

かなりの独断と偏見によることはあらかじめご承知おきください。

英語が一番難しい

結論から言うと、この3カ国語の中では、日本人にとって発音が一番難しいのは英語だと思います。

”th”や”r”など、日本語には存在しない発音を、中学の時にうまく発話できなくて悩んだ人は少なくないかと思いますが、私がここで一番強調したい英語の発音の難しさは、口語における発音の変化です。

代表的なものをいくつか例示します。

  • 語尾の子音の消失:silent night サイレンナイ、good morning グッモーニン
  • 語頭のhの脱落:should have シュッダブ
  • t・dのr化:water ワラー、beautiful ビューリホー
  • 語中のtの消失:internet イナネッ、twenty トゥエニー

また、”I want to”が”アイワナ”となったり、とにかく、アルファベットどおりに発音されないケースが非常に多いんです。

個人的な経験としても、アメリカ駐在時代、西海岸で仕事をしていた際に、日系3世の現地社員とレストランに行った際、この人が店員に対し、ごく日本人的な発音で「ワラー」「ハッティー」と注文したのを聞いて理解できなかったのを覚えています。

それぞれwaterとhot teaのことで、店員が水や紅茶を持ってきてからやっとわかった訳ですが、こうしたことって、知らないと、ゆっくり発音されても聞き取れないんです。

そして、残念なことには、英語の聞き取りにおいて非常に重要なこのポイントを、日本の学校英語教育では教えてくれません。

30代前半のとき、「1000時間ヒアリングマラソン」という通信講座を受講したのですが、そのときの講師がshould have(シュッダブ)の発音について「よく知られている冒頭の”h”の脱落」と説明していたのですが、「そんなこと全く初耳だけど。」と思ったのを覚えています。

このあたり、英語学習法で著名な一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏が”「超」英語法”という著書で体系的に詳しく解説されています。

初版が2004年とやや以前の書籍ではありますが、内容的には全く古さを感じさせない名著だと思います。

私がこの本を読んだのは、アメリカ駐在から帰国した後でしたが、出来れば駐在に行く前に知りたい内容でした。

私は仕事や生活におけるアメリカ人との会話の中で、つまり実践の場でこの発音変化に徐々に気付いていった部分が多く(先ほどの「ワラー」のように)、今思うととても非効率だったように思うからです。

まだ読んだことのない方には是非ともご一読されることをお勧めします。

因みに、口語における発音の変化は、フランス語にも中国語にも存在します。

フランス語では、語尾の子音と次の単語の冒頭の母音がくっつくのは正式な発音ルールですし、中国語でも同様の現象はあります。

でも、英語ほどは顕著ではなく、それが発音面で一番難しいのは英語だと思う理由です。

二番目は中国語

英語の次に発音が難しいと思うのが中国語です。

冒頭で少し触れた音節の多さと、”四声”というイントネーションの難しさがその理由です。

まず音節についてもう少し説明します。

日本語の約100種類に対し中国語は400種類以上あると書きましたが、どういうことかと言うと、日本語に存在しない音があることや、その結果、日本語では同じ音と認識しているものが中国語では微妙に異なる複数の音に分かれているということです。

例えば、中国の「河南省」と「湖南省」は、カタカナではいずれも「フーナンシュン」になりますが、「フー」の部分の、”河he”と”湖hu”は別の音です。

huの方が日本語の「フ」に近く、heは口を横に広げて発音する日本語にはない音なのです。

その他にも、zhuとju(カタカナではいずれも”ジュ”)、shaとxia(同じくいずれも”シャ”)、anとang(同じくいずれも”アン”)など、たくさんあります。

また「そり舌音」(shi、chi、zhi)のように、カタカナでは表現しようのないものもあります。

これらは、聞き分けるのも、自分で発声するのも、日本人には容易なことではありません。

そして中国語の発音を難しくしているもうひとつの要素が、”四声”(シセイ)です。

これは漢字ひとつひとつがもつイントネーションのことで、水平に高く発音する”第一声”、後半を高くする”第二声”、全体に低く発音する”第三声”、後半を下げる”第四声”があります。

四声は母音の上の記号で表します。

よく初心者用の教材に登場する”マー”を例にあげます。

  • 第一声:妈 (母親)
  • 第二声:麻 (しびれる)
  • 第三声:马 (馬)
  • 第四声:骂 (叱る)

”a”の上の記号で、何となくイメージが掴んでいただけるのではないでしょうか。

これを間違えて発音すると、意味が全く変わってしまうので、思っている以上に中国人には理解してもらえません。

中国語の勉強を始めてから1、2カ月したときに上海に出張したのですが、空港からタクシーに乗った際、勉強の成果を試そうと意気込んでドライバーにホテル名を告げたものの、四声が曖昧だったために、全く理解してもらえなかったこともあります。

四声は漢字ごとに決まっている為、漢字の数だけ覚えないとならないし、それを会話の中で聞き分けたり自分で正しく発音したりできるようになるまでには、音源を聞きながら自分でも口に出すということを何度も繰り返す必要があります。

この”音節の多さ”と”四声”の合わせ技が、中国語の発音を英語に次いで難しいと認定する理由です。

フランス語の発音は一番簡単

フランス語は、日本人には一般に難しい言語と認識されているように思いますが、こと発音に限れば、英語・中国語と比べて、日本人にとっての難易度は高くないと思います。

すごく簡単というつもりはありません。

日本語に存在しない発音がありますし(例えばrの発音はかなり独特)、特有のルールもあります。(語頭のhは発音しない、語尾の子音も発音しない、oとiが連なると”ワ”に近い音になる、anはアンではなくオン、等)

ホームステイ先で「アーユーアッピー?」と聞かれて咄嗟にわからなかったり(Are you happy?のhを発音しない、というより発音できない)、手袋(gant)を買いに行って「ガン」と発音したら全く分かってもらえなかったこともあります。

にもかかわらず、英語・中国語と比べて難易度が高くないと考える最大のポイントは、口語における発音の変化の少なさです。

語尾の子音と次に来る言葉の母音の連結(例えば、「友達(複数)」”amis(アミ)”の前に、「私の」”mes(メ)”がくると、”mes amis”(メザミ)となり、個別の単語には存在しない「ザ」という音が生じる)を含め、アルファベットの見た目と異なる場合は、全てルールが明確に定まっており、不規則に音が変化することがほとんどないのです。

改めて振り返ってみると、フランスでの研修時代、一緒に勉強していた日本人の中で発音が不得意だったのは、発音ルールをきちんと理解していない人が多かったように思います。

逆に言うと、ルールさえ正確に認識しておけば、ちょっと極端に言うと、日本語のカタカナの発音で十分に通じるように思うんですよね。(先の手袋の例で言うと、カタカナ的に「ゴン」と発音したらすぐわかってくれました。)

それがフランス語の発音の難易度はやや低いと感じる理由です。

まとめ

如何でしたか。

言語学的には多少不正確な記述もあるかもしれません。

「いやいや、自分は全く意見が違う」という人も当然いらっしゃるでしょう。

ですが、3つの言語を長年苦労して習得してきたものとしての、素直な感想ではあります。

ご参考にしていただければ幸いです。

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