かなり以前の話ですが、フランスに2年ほど暮らしたことがあります。
その間、色々な機会に、人の運転する車に乗ったり、自分で運転をすることがありました。
日本とだいぶ違うなと思う点がいくつかありまして、今日はそのフランスの運転事情を皆さんとシェアしたいと思います。
ヨーロッパの他の国にも共通する点もあり、今まさにEU域内で暮らされている方には「あるある」と思っていただいたり、これから欧州に旅行や或いは住むために訪れる方にはちょっとした参考にしていただけるのでは、と思います。
ラテンの血
最初はフランス人の運転ぶりについてです。
一言で言うと、”荒い”です。
スピードを出すのが好きだし、ハンドルさばきなんかも荒っぽい。
勿論、日本人でもそういう運転する人はいますけど、平均的なレベルには明らかに違いがあるように思います。
2つ具体例をご紹介します。
ひとつめはホームステイ先のご主人です。
ある週末に家族で郊外に日帰りのピクニックに行くことになり、それに連れていってくれるというので、同行することとしました。
フランスの道路は、一般道でも制限速度が80キロと日本よりは高めで、行きは制限速度を大幅に超えることはなかったものの、一般道で80キロというのは結構なスピード感があります。
2時間近いドライブで目的地に到着し、確か峡谷のある景色のいい場所でしたが、そこで奥さんが用意してくれたサンドイッチの昼食をとり、その後、周辺を散策するなどしてひとしきりのんびりしてから、帰路につきました。
理由はわかりませんが、帰り道はいきなり飛ばし始めます。
フランスの田舎道は、信号も少ないし、平坦な地形が多く、また道路幅も日本より若干広めで、飛ばしやすい環境であるとはいえ、平均で120キロくらい、ときには140キロくらいまでメーターの針が達します。
高速じゃない、一般道でですよ。
助手席には奥さん、後部座席には私と大学生の娘さんが座り、奥さんと娘さんは慣れているのか、普通に世間話なんかしています。
私だけ後部座席で緊張に縮こまって、行きには2時間近くかかった道のりを、帰りは確か1時間半くらいで走破したように思います。
家に到着すると、家族は仲良くテレビを見始めたところを見ると、特に急いでいたとは思えません。
普段は温厚なご主人なんですが、やっぱりラテンの血が流れているんだなと思いました。
ふたつめはスキー旅行に行った時の経験です。
12月のクリスマス休暇を利用して、Mont d’Or (直訳すると”金の山”)という、ホームステイ先のあるビシー市から北東に300キロ程のスイスとの国境ほど近いところにあるスキーリゾートに、日本人のクラスメート4名で訪れました。
確か夜行列車でゲレンデの最寄り駅に到着し、徒歩で宿泊予約をしておいたホテルに向かいました。
ゲレンデまでは、ホテルのマイクロバスで送迎してくれることになっていました。
駅でもらった地図を見ながら数分歩くと、ホテルというよりはペンションといった方がしっくりくるこじんまりとした宿に到着しました。
チェックインし、部屋でスキーウエアに着替えて、ホテルのエントランスに戻ると、マイクロバスが既にスタンバイしていて、我々だけを乗せてすぐに出発しました。
午前10時くらいだったかと思いますが、雪が降っており、風も少し出ていて、視界不良の中、チェックインの手続きをしてくれたホテルのご主人と思しき人がハンドルを握ってくれています。
少し街中を走ったのち、左右を林にはさまれた郊外の道に入ったのですが、ご主人、ここで猛然と飛ばし始めます。
道路には雪が積もっていて、しかも雪のための視界不良もあり、我々には道の境界なんかもはっきりわからないのですが、メーターを見ると時速80キロほどは出しており、ちょくちょくタイヤが雪面で滑っているのを感じます。
多分10分かそこらの短いドライブだったと思いますが、とても長く感じました。
私は、社会人になってからの最初の勤務地が東北だったので、自分の運転も他の人の運転の車に乗ったときも含め、雪道の運転の経験は少なくないんですが、日本人でこんな運転する人には会ったことがありません。
慣れた道であるのは確かなんでしょうが、これもやはりラテンの血がなせる業としか思えませんでした。
ラウンドアバウト(環状交差点)
自分で車を運転するようになって、フランスで便利だなと感じたのが、この”ラウンドアバウト”(環状交差点)です。
どういうものかと言うと、十字路等で、普通の交差点の代わりに、道路の交差部分の中央に円状の空白地を設け、車はその空白地の周り(環状道路)を一方通行(左側通行の場合は時計回り)で進行するというものです。
原則的に信号は設置されておらず、環状道路部分に新たに侵入する車は、既に環状道路を進行している車がいたら道をゆずらなければならないものの、いわゆる”信号待ち”という状態がなくなります。
皆さんも、日本で空いている郊外の道を運転する際など、交差道路に車が全然来ていないにもかかわらず、赤信号であるが故に無駄に待たないとならないという経験をされたことは少なくないのではないでしょうか。
ラウンドアバウトは、環状道路に侵入する際、最低限、徐行はしないとならない為、普通の十字路の交差点で信号が青の場合に比べるとやや時間はかかりますが、無駄な信号待ちがなくなるのが大きな利点と考えられており、私もとても効率的な構造であると思います。
今回この章を書くにあたってちょっと調べたところ、日本でも2014年の道交法改正で法的に整備され導入が始まったとのことですが、2024年3月末時点での導入数は全国で160カ所程にとどまるとのことで、まだまだ一般的だとは言えない状況だと思います。
欧州では、フランス以外の国でも広く普及しており、日本でも、もっとスピーディーに広まることを期待しています。
一方、ラウンドアバウトについて考えるとき、必ずしもポジティブな意味ではなく思い出すことの一つに、パリの有名な観光スポットである”凱旋門”があります。
実は凱旋門の周辺が巨大なラウンドアバウトになっており、凱旋門自身は、上の説明にある交差点中央の空白地に建造されているのです。
ここの特徴は、”接続している道路の本数の多さ”と”環状部分の道幅の広さ”です。
そもそもラウンドアバウトのメリットが一番大きく出るのは交通量が少ない場所だそうなのですが、凱旋門は、パリという大都会のしかもシャンゼリゼ通りをはじめ12本もの道路が接続する、交通の要衝です。
更に、環状部分は、ラインが引かれていないので何車線とは明確に言えないものの、少なくとも7-8台は並走できる程の道幅があるんです。
そこに、ラテンの血を燃やすドライバーが競って突っ込んでいく為、例えば、凱旋門の上から足元を見下ろすと、日本人にはちょっと目を疑うようなカオスな光景が広がることになります。
Youtubeを探したところ、凱旋門を上空からドローンで撮影した動画(”Arc de Triomphe by drone”)が見つかりましたので、是非ご覧ください。
私も数回運転して通ったことがありますが、前後左右に色々な方向を向いた車がいて、相当にスリルがありました。
慣れている人は、環状部分に入るや否やぐんぐん最も内側の部分まで進み、自分が出たい放射線道路に近づくと、今度は逆にどんどん外側に進んでいって、最短時間で抜けていきます。
よく怖くないなと思うのですが、一度先輩の駐在員とその話になったとき、「あそこは無秩序の中にも秩序があって、それがわかれば怖くなくなる」という、私にとっては何やら哲学的な見解を聞かされました。
皆さんもパリで運転する機会があったら、一度はチャレンジしてみて下さい。
フランスの駐車事情
日本と大きく異なるフランスの運転事情して、最後に、”駐車”についてご紹介します。
基本は”路上駐車”なんですよね。
フランスを訪れたことのある方なら、お判りいただけると思いますが、ほとんどの道路には、常時びっしりと車が停められています。
私自身はフランスで自動車を所有したことがないのですが、知人の車に乗せてもらって自宅アパートに遊びに行ったときなど、建物に駐車場が付属していないケースがあり、驚いたことがあります。
日本では、駐車スペースが確保されていないと、基本的に車を購入することが出来ないのとは対照的です。
なので、車で外出をして、帰宅した際、どこに車が停められるかは、その時の運次第。
運が良ければ家のすぐ前に停車できますが、ときによっては5分10分歩かないとならない場所しか空いていないこともある訳です。
そんな具合ですから、車と車の間に少しでも間隔が空いていると見ると、どんどんチャレンジしていく。
どう見てもこの車にあの間隔では狭すぎると思われる場所でも、とりあえず試してみる人がほとんどで、その結果といっていいのか、フランス人の縦列駐車の技術は、平均的にとても高いと思います。
ですが、そんなことばかりしていると、何とか停められたはいいけど、「これ、前の車、絶対に出せないよね」となってしまうことも少なくありません。
ぎりぎりのスペースになってしまった前後の車の人は、普通にやったら出せないと判断すると、これまた日本だったら絶対あり得ませんが、前後の車を自分の車で押して動かし、無理やり隙間を作って脱出します。
嘘じゃありません、何度もそういう光景を目にしました。
日本の車は傷一つない場合が大半で、ちょっとでも傷がつくのを嫌う人が少なくないと思いますが、フランスで車を持つなら、意識を切り替える必要があると思います。
まとめ
フランスの運転事情をご紹介しました。
”恐怖の”っていうのはちょっと大袈裟だったかもしれません。
ともあれ、普通の旅行なんかでは、海外、それも言葉の通じない場所でハンドルを握るのは、ややハードルが高いとは思いますが、行動の自由度は格段に高まるので、チャレンジされる方もおられると思います。
もしそうした機会がおありでしたら、このブログの内容を多少なりとご参考にしていただければ幸いです。